千寿桜―宗久シリーズ2―
俺と源三郎は、幾度となく嫌悪感を感じてきた。



定盛。








「源三郎殿は武術の達人として、並ぶ者無し。さぞや保明様はお強くなられた事でしょうな。楽しみではありませぬか」



ねぇ?と、定盛は薄ら笑いを浮かべた。


細い目が肉付きの良い頬に隠れ、三日月を象る。






何を考えているのか読めぬ。









源三郎の背に隠れ、俺は軽く舌打ちをした。





この男の言葉には心が無い。



兄上の方が、まだ理解しやすい。










気が立つ。


この男の高い声を耳にするだけで。









知っているぞ?定盛。


お前が裏で、俺の悪評を蒔いている事を。





三枚舌の定盛。





俺と源三郎は、この狸をそう呼んでいる。







「そのお心構えだけでも、兄として汲んではいかがですか、信成様。それも、八嶋の長兄であるあなた様の器量」







……心構えだけで悪かったな。




鍛練とはめっきり疎遠となり果てた、お前の身体で吐く言葉ではなかろうが。



戦となれば、どうせ後方で口だけを動かす男が。






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