千寿桜―宗久シリーズ2―
「さぁ、一本!」



意気揚々と腰の刀を揺さぶる源三郎。



楽しそうだな?









案の定、定盛は狼狽を見せた。





「いやいや、源三郎殿と手合わせ等……滅相もござらん。刀等、久しく握ってはおりませぬ故」




暑さからなのか、焦りからなのか。




定盛は苦笑いを浮かべつつ、額に噴き出す汗を手の甲で拭う。







だが、この様な悪戯にかけては、源三郎は達者だ。




「刀の重さは命の重さ、背負うものの重さでございますな。私等と違い、定盛殿は背負うものが違います…が、噂によれば、定盛殿の剣術技は見事であるとか……」



今思い付いた一人噂だな。



「戦で奮う為にも、ぜひとも私と一本!」


「ははは……冗談がきついですなぁ」







いや、源三郎は本気だ。



手合わせだと言えば、名目は立つ。




定盛は、足腰も立たぬ程に打ちのめされる事だろう。







照り付ける太陽の下、涼しそうな表情で言葉を並べる源三郎からは、その余裕がありありと滲み出ている。



楽しそうであるのは否定できぬが……。





「止めろ、源三郎」

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