千寿桜―宗久シリーズ2―
言葉で定盛を追い詰める源三郎の肩に手を掛けた。



自分としては、打ちのめされる定盛は見てみたい。


だが、ここは兄上の手間、止めておくべきだろう。





「兄上も定盛も多忙だ。引き止めるな」




そうですかぁと、軽く唇をすぼめながら、源三郎は肩をすくめた。

興を削がれた様な表情だ。




反面、定盛は安堵したのだろう。


気の抜けた笑いを浮かべ、肉厚のある胸を撫で下ろしている。





「いやいや…源三郎殿の冗談は恐ろしいですな」




それはそうだろう。






普段は穏やかな優男の源三郎だが、戦となれば、その表情は一変する。


月尾を駆り、風を斬る様に刀を振るう姿は風神と例えられ、恐れられているのだから。



その名声は、この地だけには留まらない。



定盛としては、冗談として済ませたいと考えるのは至極当然だろう。






「行くぞ、源三郎。馬に水を与えなければ」

「まぁ、保明様がそうおっしゃるのなら…」



不満そうに、軽く刀のつばを鳴らす源三郎。



そのやりとりを睨む様に見つめる兄上へと頭を下げ、俺はその場を後にした。





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