千寿桜―宗久シリーズ2―
「何を躊躇している!もっと右足を踏み込まんか!」


俺は、竹刀を片手に声を荒げ、後進の指導にあたっている源三郎へと視線を移した。


この中の熱気の半分は、源三郎から出ているものに違いないだろう。






源三郎は、こうして鍛練をしている時と悪戯を思い付いた時、それと俺をからかう時が、輝きを増している様に思う。



いや……女の前での方が輝いているか?









源三郎の強さは、八嶋一だ。



俺は、源三郎が誰かに負ける姿は見た事が無い。


竹刀や刀を持たせれば、源三郎に敵う者はいない。





武術だけでは無く、口でもだが……。







故に源三郎は、家臣の子や若い武士に武術を教える師範でもあるのだ。











一度……数年前だが、戦に出る前の源三郎を見た事がある。



生死の間に立つ、武士としての源三郎をだ。








朱色の鎧を身に着けた源三郎は、屋敷の縁側にあぐらをかき、ぼんやりと庭を眺めていた。


いつも、源三郎と共に語る場所に。







見掛け、歩み寄り名を呼び掛けた俺は、足を止めた。





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