千寿桜―宗久シリーズ2―
丸みと艶を帯びた頬が、笑う瞳を押し上げる表情は、健康そのもの。


好感が沸き上がる。



工藤は母親似だな。


まぁ、工藤は野球をしていたせいか、適度に筋肉質ではあるが。







「親父は?」

「港に行ってるけど、そろそろ戻る頃でしょう。休んで待ちなさい」



新庄さんもと、笑顔を向けられた。



笑顔を返し、失礼しますと玄関へと入る。





だが、靴を脱ぎかけ止めた。








……落ち着かない。


桜が気になるのだ。







「工藤」

「何だ?」




僕は、既に靴を脱ぎ、荷物を持ち上げる工藤に声を掛けた。





「桜、見に行ってもいいかな」

「桜を?今すぐ?」







工藤は、両眼を見開いた。


軽く数回瞬きをしつつ、まだ靴を履いたままの僕を見下ろす。









……そりゃそうだろうなぁ。






玄関にも上がらず、そわそわしながら桜を見たい等、年配者の様な事を言う二十一歳の若者がいるのだから。







だが、僕は疑問には忠実な人間だ。



人にどう見られ様が、気になるものは気になる。






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