千寿桜―宗久シリーズ2―
思わず溜息が漏れる。



肩を落しながら、隣に立つ源三郎を呆れ果て見つめる。






源三郎は、相変わらず鼻歌混じりに、水に浸した手ぬぐいで、裸の上半身を拭き始めている。









源三郎の身体。


その身体には、無数の傷が刻まれていた。


全て、戦にて受けた傷だ。





刀、槍、弓、火傷、それらが鍛え上げられた源三郎の身体を網羅する様に、刻み込まれているのだ。





それは、武士である源三郎の歴史であり、記録でもある。











ふと、俺は思い出す。



数年前、源三郎が、源三郎らしからぬ大怪我を負い、屋敷に戻って来た時の事を。







月尾に寄り掛かる様にまたがり、戻った源三郎。



その血は、月尾の背からしたたり落ちる程に流れ、源三郎は呼吸さえもままならぬ様子で、苦痛に歯を軋ませていた。






記憶では、脇腹に真一文字に受けた刀傷であった筈だ。






「源三郎」

「はい」

「昔、戦で大怪我をして戻った時があっただろう?」



問いに、源三郎は形良い眉をひょいと跳ね上げた。








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