千寿桜―宗久シリーズ2―
「怪我ですか?毎度の事なので、どの怪我なのか」

「脇腹に受けた刀傷だ」





脇腹…と呟き、源三郎は首を傾げつつ空を仰ぐ。

源三郎にとっては、傷を負うのは日常的なのだろう。




「脇腹……ああ」


ようやく思い出したらしい。






源三郎は袴を腰骨まで下げ、これですねと指で差して見せる。




そこには、身震いを誘う程に生々しく残る傷痕があった。


腹の皮を裂き、えぐれる中から肉が盛り上がる線を紅色が濃く彩り、それはどれ程の怪我であったのかを考えるには容易であった。










あの時、俺は源三郎が死んでしまうと泣いたのだ。






源三郎の腹から溢れ出す赤い液体は、血止めに巻き付けられた白い布さえも同じ色に染め上げ、もはや血止めとしての役割を果たしてはいなかった。


液体を地面に滴り落とす為だけのものと化していた。








「痛い!痛い!」



横になり介抱される源三郎の隣で、ただただ痛いと叫び、泣いていたのを覚えている。







そんな幼い俺に弱々しく笑いかけた源三郎は、朱色にまみれた震える指で、俺の頬に流れる涙を拭ったのだ。
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