千寿桜―宗久シリーズ2―
俺の問いに、源三郎は傷を撫でていた手を止めた。



軽く瞳を伏せ、小さな溜め息を漏らしている。







「強い……そうではありませんでした。手合いとしてはむしろ、斬りつけた敵の大勢の中の一人にしか過ぎぬ実力でしょうね」

「その様な者が、あれ程の傷を負わせたと言うのか?源三郎に」








源三郎は、笑った。


その笑みは、今にも泣き出してしまいそうな予兆を含んだ弱々しい笑みで、俺は聞いてはいけない事を聞いている様な罪深さに包まれた。






言葉を詰まらせ、息を飲んだ。





聞くべき……なのだろうか。


しかしここで、不自然に止めても良いのだろうか。






迷い、俺は飲み込みかけた言葉を吐き出す。




「源三郎程の者が、なぜそこまでの傷を負わされたのだ」







疑問であった。


風神にさえ例えられる源三郎に、何が起こり傷を負ったのか。



長い時、疑問を抱いていた。








眩しそうに瞳を細め、青空を見上げる源三郎。



その色彩を、光を、瞳に留めるかの様に。








「私が、敵を前に一瞬……躊躇したのですよ」

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