千寿桜―宗久シリーズ2―
ぽつりと、言葉を地面に落とす様に語る源三郎。







躊躇だと?
源三郎が?


なぜだ………?







「私が躊躇した敵は、元服して間もない歳の頃の、あどけない少年でした」



元服して間もない…。



「源之助が死んでから時が経たない戦でしたから……重なってしまったのです。弟の姿とね」




そうだ……源之助は、元服を間近に控えて死んだのだ。


その悼みが癒えきらぬままの戦。

だから……だから源三郎は躊躇したのか。



深手を負う程に。







「私を斬りつけた後も、少年は震えておりました。初めての戦であったのでしょう。分かります、私も初めはそうでしたからね」



吐ききり、源三郎は再び溜め息をついた。


鮮明に覚えているのだろう。



語る源三郎の眼差しは、今は見えぬ過去の景色に思いを馳せている様だ。








震えていたと言う少年。


その姿は今、源三郎の視界に在るのだ。




武士ならば、通るべき試練の一つなのだろうか。






「源三郎も、恐いと感じるのか?」





当然でしょうと、源三郎は笑った。






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