千寿桜―宗久シリーズ2―
「とりあえず、上がってからにしろよ」

「いや、今行きたい」




即答した。






言い出したら聞かない一面を持つ僕を、工藤はある意味理解している。





物好きなと笑いながら肩をすくめる。






「駐車場の脇に裏道がある、道なりに登れば神社に着くぞ」






荷物を置いたら俺も行くからと、工藤は言ってくれた。





言葉に甘え、僕は神社のある裏山へと向かった。













工藤が教えてくれた裏道は、遊歩道の様な細い道だった。




背の高い杉の木の間、適度な湿度と少し冷えた空気が漂う、緩やかに続く上り坂。





下手すれば草木に覆い隠されてしまいそうな道だが、定期的に除草はされているらしく、思ってたよりも快適に歩けた。



ふと、夢で見た細い道を思い出す。







好奇心が溢れていた。





桜が見たい。


いや……会いたいという表現の方が合うかもしれない。








恋する気持ちにも似た高揚感が、僕の身体を前へと押し進める。





早く、早くと急かす。







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