千寿桜―宗久シリーズ2―
俺は、刀を天にかざす源三郎が呟いた言葉の意味を、今悟る。



ー我が犯す罪は、いずれ地獄にて償わんー







悔いている。

悔やまぬ筈が無い。





それでも源三郎が戦で敵を斬るのは、帰る為。

己を待つ者の元へと帰る為。



それは親であり、兄であり姉であり妹であり………俺なのだ。




だからこそ、生きて戻れと源三郎は言うのだ。

死が、どれ程に重いものか知るからこそ。


重いからこそ、敵を斬る己の罪深さを背負い、生きているのだ。







俺は、その痛みを知らぬ。

源三郎の痛み全てを知り得る事はできぬ。


知らぬのに、源三郎を責める事はできぬ。







だが、源三郎を認める事はできる。




何があろうと、源三郎は源三郎。

それ以外の何者でも無いのだから。









「戦とは、人の感情を捨てなければ切り抜けられるものではありません。
私とて、運良く戻れてはおりますが、いつ斬られて果ててもおかしくはないのですから」




「…………やめろ」





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