千寿桜―宗久シリーズ2―
もし源三郎が戻らぬのなら、俺は誰かを憎むかもしれぬ。


斬った者を捜し出すかもしれぬ。




源三郎が生きて戻る為には、多くの敵を斬らなければならない。


命の重さ……。




大切にしなければならないとは思う。

その上で勝手な物言いかもしれぬ。



だが、源三郎を失うのは嫌なのだ。







「できる限り生きて戻る覚悟はありますが、覚悟と現実は、時に相対するものでもありますからね」

「…………俺は」






嫌だ……。


源三郎が戻らぬ現実を受け入れる事等できる覚悟は無い。




源三郎が戦で、俺の目の届かぬ所で……砂にまみれて地べたに転がる姿は考えたくも無い。








「もし源三郎が斬られ果てたなら……俺は敵を捜しだし、仇を討つかもしれん…」

「それはいけませんよ、保明様」








静かに首を振り、源三郎は手を伸ばしてきた。





唇を噛み締めうつむく俺の頭を、いさめる様に撫でてくる。



幼い頃、俺がふくれるといつもこうしてきた源三郎。




大きな手が、刀や竹刀でできた豆だらけの手が、傷だらけの手が、俺は大好きだった。


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