千寿桜―宗久シリーズ2―
「武士が武士を恨む道理無し。武士として生まれたからには、どこで果てても、それを恨んではいけないのです。
生きて戻る覚悟と等しく、死ぬ覚悟もあるのです。
生きる時は華々しく、散る時は潔く、それが武士の道なのです。
ですからどうか私が果てても、保明様だけは健やかであります様…それが私の、ただ一つの願いです」


「それは…どの様な果て方でもか?理不尽な果て方でもか?」






そうですと、源三郎は力強く頷いた。



悲しげであった漆黒の瞳に、木漏れ日にも似た穏やかさをたたえて。







「散る事にも意味があると、私は思っております」


「散る事の意味とは……何なのだ」







肩をすくめ、源三郎は笑った。




いつもと同じ顔で。

俺とふざけている時と同じ笑顔で。







「それは愚問ですよ、保明様」









俺は悟る。




源三郎の、散る意味。




いつもいつも、呆れる程に聞かされ続けた言葉……。









『心はいつも、あなたと供に有り。
私が死ぬ時は、保明様の為と決めております』









.
< 163 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop