千寿桜―宗久シリーズ2―
と言うより、何も言えん。

俺が説教した所で変わる男ならば、とうの昔に妻を娶っているに違い無いからだ。





今の源三郎の中には、天秤がある。

瓜と女を量りにかけた天秤だ。


どちらに傾いているかと問われれば、女と言うだろう。


当の本人、源三郎の喜々とした表情が、言わずとも語っている。






「紅(べに)の行商に来ている女が、明日の朝に発つと言うので…言葉を掛けに行くだけですよ?」





何も聞いてはおらぬのに………。


違うと、必死に言い訳をした意味が無いのではないか?






詮索せずとも事情を知った俺は、勝手にしろと横を向いた。




瓜は待っていて下さいねとの言葉を残し、意気揚々と足取り軽く、野暮用とやらに出掛ける源三郎。




舌打ち混じりにその後ろ姿を見送った俺の視界に、道場から出て来た貞吉の姿が目に止まったのだ。







ふふ………甘いぞ?源三郎。





「貞吉!」


呼び掛けに、貞吉は肩に担いでいた竹刀を降ろしながら振り返る。



「あ、若様」

「瓜が冷えておるのだが、どうだ?」

「瓜ですかぁ!」





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