千寿桜―宗久シリーズ2―
まるで、水を求める河童の様に、貞吉は潤いを瞳に乗せながら駆け寄って来た。





そうして俺は貞吉と共に、冷えた瓜を腹に納める事にしたのだ。


源三郎の分も。









すでに、天高く位置を占めた陽。

馬場の屋根の下、影を作る地に腰を降ろし、瓜を頬張る。






その冷えた感覚は喉を伝い、夏の暑さにげんなりとし始めていた俺達の臓腑に染み渡っていく。






「生き返りますねぇ」



貞吉は、冷たさを噛み締めているのか、至福の表情で眉間に皺を寄せている。





「源三郎が、芳からくすねて来たのだ」

「え」




二つ目の瓜に手を伸ばしかけた貞吉の動きが止まる。




「構わぬ、好きなだけ食べろ」

「ですが…」

「井戸に戻す訳にもいかぬだろう。俺が良いと言っておるのだ」






どうせ源三郎は、瓜以上に涼しげな顔で戻るに違いないのだ。


ふてぶてしい奴。







「師範は、いつも多忙でございますね?大変だなぁ…」



眩しそうに空を仰ぎつつ、二つ目の瓜を口元に運びながら、しみじみと貞吉は呟く。





多忙………。




ある意味、そうだ。


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