千寿桜―宗久シリーズ2―
蕎麦屋や団子屋、旅の一座やら行商やら、通りすがりの女への多忙………だがな。



いつか必ず、背後から刺されるぞ。








眉を潜めた俺の頭を、何かが撫でた。


瓜の匂いに誘われたのか、馬場から顔を出してきた月尾だ。



催促しているのだろう、俺の髪に鼻先を擦りつけている。






笑い、食べかけの瓜を鼻に近付けてやると、吸い付く様に歯を立て始めた。









月尾は、こうして甘えてくるくせに、いざ背に乗ると、手の平を返した様に景気良く俺を振り落とす。


今まで、幾度と落とされてきた。




俺が落とされる事はあっても、俺が月尾を落とす事は無い。



どんなに求愛してもだ。



源三郎のみにしか、背を任せぬ。



馬とは言え、長い時変わらず一人の男にのみ、一途に想いを寄せる女がすぐ近くに居ると言うのに…。





「月尾、お前は大変だな。節操の無い主人を持って」



いっそ月尾が、源三郎との子でも産んでやれば良いのだ。






慰めと労りを込め、月尾の艶を帯びた鬣(たてがみ)を撫でてやる。


甘えているのか、月尾は歯を見せ、軽く鼻を鳴らす。

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