千寿桜―宗久シリーズ2―
桜の追憶
桜へと、足を踏み出した僕の瞳が、人の姿を捕えた。




目を細め、凝視する。






千寿桜の下、誰かが立っている。




桃色の雪の中、揺れる人影。



大きくは無い。






小柄な……女性?







ほのかに朱色を帯びた桜色の着物、長い黒髪の後ろ姿。



木の幹を撫でながら、桜を見上げている。








―お待ち致しておりました―






夢の中、聞いた言葉。





まさか…………。







身体が、微かに震えた。



歩み寄る歩調が、重くなる。






―長い時、待ち焦がれておりました。あなたが見つけて下さるのを…―







まさか………夢の……?





そんな事があるのか。



待っていたと。






本当に?







心臓が、耳の中にあるかの様に響く。





僕は、何を期待しているのか。



まさかと考えながらも、溢れる期待は、明らかに僕の身体を震わせている。







歩み寄る僕に気付いたのか、優美な後ろ姿が振り返る。






息が、足が、止まる……。






「…………」




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