千寿桜―宗久シリーズ2―
美貌の裏
裏山を下り、工藤宅にて案内されたのは、自宅に続いている旅館の一室。
シンプルな和室だが、元々古い趣のある家の為、何も装飾は必要無い様に思う。
床の間にさりげなく飾られている生け花だけで充分だろう。
十畳の広さがあるその部屋には、海側に面する大きな窓があり、一面に広がる春の海の景色が楽しめる。
夕方である今時刻。
海は、炎の様な夕焼けにその身を染めていた。
朱色の空、空の色を写す海面。
まるで、互いを抱きしめ合う様に繋がっているみたいだ。
窓の前に置かれている品の良い濃茶の一人掛けソファに身体をうずめると、自然と溜息が漏れた。
いい部屋。
いい景色。
穏やかな空気の流れ。
夕食の時間までゆっくりして下さいね。
そんな工藤の母の言葉に、お礼を返す。
そうして退室して行く母を見送り、工藤と二人きりになるや否や、僕は思っていた正直な感想を呟く。
「……似ていない」
工藤姉弟がだ。
それしか言えない。
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シンプルな和室だが、元々古い趣のある家の為、何も装飾は必要無い様に思う。
床の間にさりげなく飾られている生け花だけで充分だろう。
十畳の広さがあるその部屋には、海側に面する大きな窓があり、一面に広がる春の海の景色が楽しめる。
夕方である今時刻。
海は、炎の様な夕焼けにその身を染めていた。
朱色の空、空の色を写す海面。
まるで、互いを抱きしめ合う様に繋がっているみたいだ。
窓の前に置かれている品の良い濃茶の一人掛けソファに身体をうずめると、自然と溜息が漏れた。
いい部屋。
いい景色。
穏やかな空気の流れ。
夕食の時間までゆっくりして下さいね。
そんな工藤の母の言葉に、お礼を返す。
そうして退室して行く母を見送り、工藤と二人きりになるや否や、僕は思っていた正直な感想を呟く。
「……似ていない」
工藤姉弟がだ。
それしか言えない。
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