千寿桜―宗久シリーズ2―
「所で、新庄くんには彼女はいるのか?」

「――?!」





突然の脈絡の無い会話の転調に、思わず含んだ酒を吹き出しそうになった。








日本酒のアルコールが喉を焼くかの様にまとわりつき、それを更に酒を流し込む事で落ち着かせながら、僕は涙目になりそうな瞳を工藤の父に向けた。







「………はい?」







ようやく呼吸が整う。







「惣一からは、今はいないと聞いたんだがな」

「……………」





僕は、隣で鮪の刺身を頬張る工藤を横目で見る。





一体、親に何を話している?









視線のみで訴える無言の責めに、工藤は気まずいのか、素知らぬ振りで顔をそらしている。








何だ?


何だかおかしな雰囲気だな。










「はぁ……まぁ……いませんが……」









隠す必要も無い。



先月、振られたばかりだ。







何でも、僕が気の無い様に見えるらしい。




悪気は無いが、実際、彼女が側に居る時も、違うものに気を取られていたのは事実だ。






……人では無いものなのだが。


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