千寿桜―宗久シリーズ2―
「……やばっ」



工藤の呟きに導かれ、同じ方角へと視線を向けた。










………瑞江さんだ。









瑞江さんは、息を殺す様に俯いていた。



細い肩が、微かに震えている。








「…お先に、下がらせて頂きます」







押し出す呟きと共に、彼女は美貌を上げた。






視線は………未だ咳込む僕。





苦しさから、涙で滲んだ瞳に映る、瑞江さんの表情。




形良い眉はつり上がり、黒目がちの大きな瞳は細く歪み、唇からは憤怒の言葉が吐き出されそうな………。





鋭く刺す、睨みつけられる視線には、明らかに嫌悪が含まれている。









………かける言葉が無い。




いや、咳で声が出ない。







それより、僕にとっても予想外な展開。





一体、何なんだ?









咳込みつつ、隣の工藤に目配せを送る。



この場の収拾と抗議の目配せ。








工藤は申し訳なさそうに苦笑し、手を合わせる代わりなのか………胸の前で十字を切っている。





手に負えない?



ふざけている場合か?


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