千寿桜―宗久シリーズ2―
うなづきながら工藤は、お茶をたたえた椀を、遊ぶ様に指で弾いている。




「相手は父さんの知り合いの息子でさ、三十六歳の医者」

「ふぅん…」




その歳で独身なんて、よほどの遊び人か、趣向に問題有りか、かなりの奥手か、そのどれかだな。





「隣の県の、小さいけど総合病院の跡取り息子でさ」



ブランドじゃないか。

なのに独身……ますます怪しい。






「その相手は、写真の姉さんを一目で気に入っちゃって。いわゆる一目惚れ」




あぁ……瑞江さん美人だからな。

写真では、気の強さまでは写らない。






「是非縁をすすめたいって先方の申し出を、姉さんは断ったんだ」

「歳が離れているから?」



瑞江さんは、二十二歳だったな。







「歳じゃないんだよ、理由」






溜め息を吐き出し、工藤は眉をひそめる。








「千寿桜の見えない土地には嫁に行かないって」

「は?」





桜?





「…何で桜?」




問い掛けに、知らないと工藤は呆れ口調で肩をすくめて見せた。






桜。


嫁に行かない理由が?




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