千寿桜―宗久シリーズ2―
忘却の糸
花びらが、舞っている。






僕の身体にまとわりつく様に、戯れる様に、はらはらと降り落ちる濃い桃色の花びら。









薄暗い闇夜の空間、小高い丘の上、見下ろす彼方へと伸びている白く細い道。








目の前には、ほのかに光る桜の大木。


見上げる大木。







千寿桜だ………。











あぁ、僕はまた呼ばれたらしい。



夢という名の異次元に。










桜を見上げた。






長い時、移り変わる世を見つめてきたであろう千寿桜。



それを証明するその太い幹に、僕は指先を滑らせる。







ごつごつとした幹の皮、指先が引っ掛かる感触。



夢なのに、リアルだな。











お前が、僕を呼んだのか?


何を伝えたくて呼んだ?










千寿桜は応えない………。




ただ、花びらを舞わせているだけだ。





そう簡単には教えてはくれないか。


わかってはいたが。








頑固な桜に苦笑する。










「……いらして下さったのですね」





声が、響いた。



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