千寿桜―宗久シリーズ2―
笑み混じりのその瞳は、なぜか悲しみを含んでいる様に見え………僕は、自分の胸がチクリと痛んだ事に気づく。




なぜ?







わからない。


わからないが、彼女にそんな顔をされると、なぜか痛む。









「……すいません」







謝る僕を、今度は不思議そうに見つめてくる彼女。




照れ隠しを兼ね、頭を掻き回す。










「なぜ、謝るのですか?」

「何となく…ですね」




そんな僕を見、彼女は声を立てて笑う。




まるで、初夏の空を翔る燕を連想させる、軽快な笑い声。







「相も変わらずですのね?お変わり無くて、安心致しました」





そうして、懐かしそうに瞳を細めた。






途端、ふわりと漂う懐かしさと虚無感。





何だろう。






相対する感情が浮かぶなんて。







「この桜が、なぜ千寿桜と呼ばれているのかおわかりになる?」







彼女は微笑しながら、光る千寿桜を見上げた。





「いいえ……」






そう言えば、その名由来を聞いてはいない。





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