千寿桜―宗久シリーズ2―
疑問にも思わなかった。



千寿という名に、切なさにも似た懐かしさを感じていたというのに。








やはり、思い出してはいないのですねと、彼女は呟く様に言う。









「千寿桜……その千寿は名の通り、千の幸せを願う名です」



千の、幸せ……。



「ですが、初めはこの桜の名では無かったのですが」



「え?」



初めは、違う?








「この桜は、初めは名も無い桜でございました」

「誰が名をつけたのですか?」

「誰……?」








聞き返してくる彼女。


曖昧な微笑。








「わたくしからはお教えできません。あなたが御自身でお掴み下さいませ」





……僕自身で?








風が、舞う。


桜が、散る。


その儚さへの慈しみを、花びらに乗せて。










「桜が導いてくれます。わたくしは、この桜の力を借りているだけの存在。わたくしを哀れんで……寄り添ってくれている……優しい桜です」







彼女の細い指が、愛しそうに桜を撫でる。





その太い幹に白い頬を擦り寄せ、言葉を続ける。



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