千寿桜―宗久シリーズ2―
幹に擦り寄せていた頬を上げた彼女。




すがる様に僕を見つめる、潤んだ黒瞳。






頬に……透明な液体が線を引いて落ちる。










「最後の機会なのです……どうか………どうかわたくし達を……」









桜吹雪……。










かすんでいく、彼女の姿。


ぼやけていく、千寿桜。






遠くなる意識…………。











待って。


まだ、聞きたい事がある。






僕は………何を忘れているのですか。








細い糸を掴む様な手掛かり。







見えない。









教えてはくれませんか。





記憶の糸の先を。






このままでは、困惑しか残らない。










教えて下さい。





教えて……――――。











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