千寿桜―宗久シリーズ2―
一階。




古い家独特の、ひんやりとした空気の流れを感じながら、僕は廊下から縁側へと回る。







この家の草花や木々は行儀がいい。





庭先で気合いを入れている工藤父を、静かに見守っている様だ。







僕の実家の庭ならば、すでにからかわれているだろう。









「おはようございます」





開け放たれた縁側の戸。



上半身裸の、工藤父の背に声を掛けた。






振り向いた父の手には竹刀。




ああ、何をしているのかと思ったら、剣道の素振りだったのか。



てっきり乾布摩擦かと思った。







僕を見つけた工藤父は、白い歯を見せ笑う。




「新庄くんか!若いのに早起きだな」

「はは……習慣で」




自分からじじくさいと明言している様な台詞だな。







「おじさんは、朝から素振りですか」

「これが毎朝の習慣でな」




言いながら、軽く竹刀を振って笑う工藤父。







その竹刀で、部屋で眠る息子も起こしてあげればいいのに。








.
< 56 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop