千寿桜―宗久シリーズ2―
息子を叩き起こす工藤父を想像し、笑う。



笑いながら、縁側へと腰を降ろした。







頬を撫でる清涼な潮風。





庭の草木も、心地良さそうに揺れている。



穏やかに庭を包む、春の気配。







もみじも楓も梅も、青々とした葉を天へと向け、仰ぐ。


我も我もと、光の恵みを求めて。





まるで太陽の雫を、懸命に両手で受け止めているかの様。









彼らは、生まれながらに生きる術を見出だしている。


己が輝く季節も、その身で感じ取る。






決して出過ぎず、季節と同化し、己が最も美しく見える姿を熟知しているのだ。






散り際を見極めているから。







だから、枯れゆくその時まで美しい。



そこに未練は無い。







その生き様は強く、そして儚い。







自然は、自由であるがため厳しくもある。





自由とは、己で己の責任を果たす事だ。



責任と自由は、常に一体だ。




その中で美しく在る事は、簡単な様で難しい。






だからこそ、僕は彼らが愛おしい。







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