千寿桜―宗久シリーズ2―
潮風にそよぎ、微かに擦れる葉の音。


さざめく池の水面。




庭から沸き上がってくる暖かい空気が、春の陽気が、僕の身体と意識を包み込む。





まどろみへと誘う。






ここで眠りたい気分になってきたな。








ふと、意識を空間に委ねかけた僕の頬に、何かが張り付く。






何だ?



手を伸ばし、それを指先で視界へと運ぶ。






僕に触れた物。


それは、桃色の小さな…見覚えのある花びら。










「千寿桜……」










飛んできたというのか?







まさか…………。





海から吹く風の中、山の方向への風向きの中、裏山に咲く千寿桜の花びらが?











夢の延長の様な非現実的感覚が、僕の思考を支配した。




思わず、花びらを握りしめる。










そこから伝わるのは、声。



桜の声。


僕を呼ぶ声。








急かされているのか?




桜に、彼女に………。









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