千寿桜―宗久シリーズ2―
「おじさん」




僕は、目の前で素振りを続けている工藤父の背に声を掛けた。






「裏山の桜なんですが……」




桜?と工藤父は、疑問に太い眉を跳ね上げた。






「あの桜は、いつの時代からこの地に咲いているものですか」

「いつ…だろうなぁ。正確にはわからんが、伝承では戦国の世からだな」





伝承………やはり何か言い伝えがあるのだ。



「あの桜は、なぜ千寿と呼ばれているのかわかりますか」






興奮、していたのかもしれない。



問い詰める様な僕の口調に、工藤父は困惑しながらも、これも伝承だがと教えてくれた。








「何でも千寿と言う姫が、あの桜の下で亡くなった事からだと」










脳裏に、桜の下に佇む女性の姿が浮かんだ。



朱色の着物に身を包んだ、美しい女性の…。





戦国時代、桜の元で果てた………彼女が………?








千寿姫?









花びらを握りしめた手の平が、汗ばんでいた。


だが、心は高揚していた。








見つけた。





忘却の彼方、そこに在る漂う糸を………。


.
< 61 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop