千寿桜―宗久シリーズ2―
春の長雨
朝食を済ませた僕は、釣りに行こうと言う工藤の誘いを後回しにし、裏山へ向かった。



案の定、工藤は膨れっ面で抗議してきたが、僕としては仕方が無い。








手掛かりの糸を見つけた。


目の前に、揺らめく細い糸。






今は、この余韻が掻き消されてしまわない内に、桜に会いに行きたかった。



その行動力は、自分でも驚く程だ。










昨日と同じ裏道、杉に囲まれた細い道。


湿り気を帯びた硬い土が張る地面を踏み締め、脇目も振らず歩く。







着いたのは、小さな社の後ろ。







静寂、地面から沸き上がるひんやりした冷気は、ここが神聖な場所だと認知させる。





息を飲み込み、桜の待つ正面へと足を運ぶ。










夢で会った女性は、千寿姫だ。



桜の下で、若い命を終えた……。





彼女は、なぜ死んだのか。



そして、死して尚、願う望みとは何?




最後の機会だと言っていた。








なぜ、僕を選んだ?



忘れている事とは?



僕の能力の必然とは?








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