千寿桜―宗久シリーズ2―
「止めて下さい、僕は怒って等いませんし、互いに誤解していただけではないですか」

「ですけれど……」

「むしろ感謝しているんですよ。ここに招いて頂いた事を」









千寿桜に会えた事を。










恐縮し合う僕達を見守る様に、枝を揺らしている千寿桜。



吹きはじめた春風の中を、泳ぐ濃い桃色の雪。










桜は、全て知っていた。


僕が来るだろう事を。






導いたのは、桜なのだから。







「誰にも悪気が無かったんですから、それでいいではないですか」




ねぇ?と、僕は笑って見せた。





瑞江さんは納得しきれない面持ちで、僕につられたのか、満開の桜を見上げる。






青い空さえも己の色に染めていまいそうな程に、咲き乱れる桜……。




妖艶さすら感じる。








「新庄様は、この桜がお気に召された様ですわね」

「ええ、見事な桜です」




自分の美意識が、淡泊に感じるくらいだ。







「そうでしょう?」







我が事の様に、瑞江さんは誇らしげに微笑む。





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