千寿桜―宗久シリーズ2―
笑顔を縁取る、艶のある長い黒髪が、風を含んでたなびいた。




桜を見上げる横顔、その白い頬に、舞い落ちる花びらの薄い影が横切っていく。






凛とした雰囲気が古代の桜と調和して……まるで、彼女自身が景色の一部である様な錯覚。











………見とれてしまっている自分に気付く。



慌てて咳ばらいで場を濁した。





照れ臭い。










「瑞江さんも、桜を見にいらしたんですか?」




質問に、瑞江さんは苦笑いをしつつ細い首を振った。






「わたくしは、お社の掃除に」

「掃除ですか?」

「隣組の順番で、今月はうちの当番ですの」








納得。


それと感心。






感じてはいたが、ここは信仰心が濃く漂う土地だ。






草木が生きているし、しめ繩が施された古い樹木には精霊の気配がある。



神様の力添えを感じる。





漁港前にある神社は海の神だろう。


僕の目には、水龍として映っている。





ここは山の神。


須佐之男命(スサノオノミコト)の様な出で立ちの、猛々しい男性の神だ。




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