千寿桜―宗久シリーズ2―
「お茶なんて久しぶりです」

「お好きですか?」

「実家に居た頃は、よく母に茶会に付き合わされましたからね。高校時代は、部の練習場の隣が茶道部でしたから、お茶菓子欲しさに遊びに行ってました」




瑞江さんは、丸い声を転がす様に笑う。




「新庄様のお点前も見せて頂きたいわ」

「見様見真似程度ですよ?」



笑みを返し、扉に手を掛け押し開ける。







先刻までの天気ならば、ここで陽射しが目に染みてくる筈。




だが……。










「……………雨?」






いつの間に?






首を傾げてしまう程、外は激しい雨に変わっていたのだ。





「嘘…」





瑞江さんの呟きに、僕は半分呆けたままうなづきだけを返す。





嘘みたいな雨だ。








扉の半歩外、飾り程度に付けられた様なささやかな屋根、その下から空を見上げる。



晴れ間はどこへやら、空は灰色の雲に征服されていた。




空の高い位置、ゆっくりと流れる雲。




身を軽くしたい雲の意図だろう、大粒の雫を地上に落としている。





.
< 72 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop