千寿桜―宗久シリーズ2―
地面への浸透が間に合わない雨粒は弾かれ、それが霧吹きの様に、僕の顔を湿らせるくらいの大雨……。





思わず、再び扉を閉じた。






「戻れそうでしょうか?」


瑞江さんが不安そうに、顔にかかった水を腕で拭う僕を覗き込む。





「しばらく待ちましょう。風はありますし、雲も流れています。この激しさならば長くは降りません。じきに止むか、小雨にはなりますよ」









この土砂降りの中、神社を下るのは危険だ。




裏道はぬかるんでいるだろうし、正面の石段は滑りやすくなっている筈だ。






何より、瑞江さんは着物。


雨に濡らすのは気が退ける。





しばらく待って止む気配が無いのなら、僕が濡れて傘を取りに行けばいい。









「良いお天気でしたのに……」






ため息をついた瑞江さんは、待つ覚悟を決めたらしく、ゆったりとその場に腰を降ろした。


その隣に、僕も腰を落ち着ける。







春は天気が変わりやすい。

潮風が吹く季節ならば尚更。



海上で発生した雨雲が、大地を求めて流れてくるからだ。




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