千寿桜―宗久シリーズ2―
雨が、古い社の屋根を容赦無く叩く。



激しい自然の旋律は、社の中で並んで座る僕と瑞江さんの周りの空気を振動で満たす。






Tシャツの上に羽織ったシャツの裾で、まだ濡れている頬を拭う。




そんな僕の隣で、瑞江さんが二度目のため息を漏らした。








「こんなに強く降られては…桜の花が落ちてしまいますわ」







桜。


千寿桜………。







ああ、そうだ。



あの美しい花は、落ちてしまうに違いない。






春にしか咲く事を許されない花なのに。






自然は時に、こうして僕達人の楽しみを奪う事もある。






厳しいな。









「そう…あの桜には伝承があると聞きました」

「千寿姫ですわね」






僕を見ないまま、瑞江さんは返事をした。




社の外、扉の木枠の隙間、その向こうをまっすぐに見つめている。






雨に打たれているだろう、桜を気遣う視線。







微かに差し込む光の名残が、その柔らかそうな白い頬に反射している。





美貌を際立たせている。








…綺麗な人だな。


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