千寿桜―宗久シリーズ2―
見つめる僕の視線の中、ふくよかな唇が語り出した。
「昔、戦国時代の話です。その時代、この地を治めていた領主は、八嶋秀久。彼には、正妻との二人目の子、保明(やすあき)という息子がおりました」
保明……。
何だろうか。
ひどく懐かしい名前の様な感覚が襲う。
八嶋……保明…。
「秀久は、保明にある女性を婚約者としてあてがいます。それが、千寿姫」
聞き入っていた。
身体の、外界の感覚を司る全てのものが、瑞江さんの声に、姿に、唇の動きに捕われていた……。
「千寿姫は、隣の領主であった森山義元の側室との娘。姫は条約の証として、八嶋の元に送られたのですわ」
要するに、政略結婚か。
領地争いが絶えない時代、人身御供は当然の戦略手段として実行されていた。
千寿姫は、人質。
悲しいが、それも歴史の一部なのだ。
しかし、さすが瑞江さん。
桜にこだわるだけはあり、情報をよく知っている。
助かる。
.
「昔、戦国時代の話です。その時代、この地を治めていた領主は、八嶋秀久。彼には、正妻との二人目の子、保明(やすあき)という息子がおりました」
保明……。
何だろうか。
ひどく懐かしい名前の様な感覚が襲う。
八嶋……保明…。
「秀久は、保明にある女性を婚約者としてあてがいます。それが、千寿姫」
聞き入っていた。
身体の、外界の感覚を司る全てのものが、瑞江さんの声に、姿に、唇の動きに捕われていた……。
「千寿姫は、隣の領主であった森山義元の側室との娘。姫は条約の証として、八嶋の元に送られたのですわ」
要するに、政略結婚か。
領地争いが絶えない時代、人身御供は当然の戦略手段として実行されていた。
千寿姫は、人質。
悲しいが、それも歴史の一部なのだ。
しかし、さすが瑞江さん。
桜にこだわるだけはあり、情報をよく知っている。
助かる。
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