千寿桜―宗久シリーズ2―
溜息が漏れた………途端。







ゆらりと、目の前を何かが横切った。






見過ごしてしまいそうなくらい、小さな何か。









それは、時計の振り子の様に、大きく左右に揺れながら、音も無く僕の膝の上へと舞い落ちた。










………………花びらだ。







我に返り、慌てて天井を見上げた。






どこから落ちてきたのか。








―まだ、思い出せませんか?―









天井へ泳がせていた瞳を、ふいと落とした。






声が、響いた。







社の中にでは無い。








耳でも無い。









僕の意識の中にだ。







辺りを見回す僕の頬に、今度は、ひやりと冷たい感触。






嫌な冷たさでは無いが…。


…何?





―あなたはもう、記憶の岸辺に辿りついているというのに……―










僕の頬に触れたもの。






それは、白い指先。





そして僕の目の前に…同じ目線のそこにある顔は………。







「千寿…姫……」」





夢の中の、女性であった。
.
< 80 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop