千寿桜―宗久シリーズ2―
ほのかに光をまとった美しい姿。



白い肌の上に浮かぶ、妖艶な程の鮮やかな紅色の唇が、静かに笑みを象る。







投影の様に儚げな気配。



雨音にさえ掻き消されてしまいそうな程に儚い。







まさか……現れてくれるなんて………。









「あなたは……僕に何を思い出せと言うのですか」









問いに、姫は応えない。




やんわりと、微笑を光に乗せるだけ。










「僕は、何を忘れているのか……僕は、あなたを懐かしいと感じています。ですが、その記憶がどこから運ばれてくるのか、胸の痛みは何を意味しているのか……掴めないのです」









千寿姫は、笑う。




笑いながら、僕の顔を覗き込む。









雰囲気から香り立つ色香。







長い黒髪が、光を弾く様に揺れる。






揺れる……………。








無重力に似た体感が襲う。






酔っている様な、催眠状態の様な………。









―参りましょう…―




姫が、僕の手を取り引いた。






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