千寿桜―宗久シリーズ2―
真実 1
季節は春。



眩しい程の太陽の日差し。






目にも鮮やかな新緑の中、俺は屋敷へと戻る道を、風をきりながら走っていた。







耳に届く愛馬トキの蹄(ひづめ)の音が、頬に、額にあたる風に混じり、身体を揺さぶる。




時折、手綱を握る手をトキの柔らかな鬣(たてがみ)がくすぐる。



肌にまとわりつく様な、着物の感触さえも心地良い。







春は、全てが心地良く感じられる季節だ。










「早く来い!源三郎」








後方を、同じく馬を駆り着いて来る共を振り返り、声を掛ける。







「はい、保明様」





源三郎は、急かす俺に笑いを返してきた。



まるで、子供の我が儘に付き合う大人の表情だ。







仕方が無い。



北上源三郎は、俺が幼少期から側に着いていた者。


俺の乳母の実子にあたる。

つまり、乳飲み子の頃から知られているのだ。



十年差があるせいか、兄の様でもあり、時には同年の遊び相手にもなる男。




こうして、突然の野駆けにも嫌な顔一つせずに着いて来る。





悪態はつくが。




.
< 83 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop