千寿桜―宗久シリーズ2―
だが、父はそれを許さない。



一度、それらしき事をほのめかせた事はある。





「保明、お前程の聡明さがありながら、何を言い出すのか」






父は言う。



領民を、守ってやっているのだと。

あやつらが我らに従うのは、身分から当然なのだと。
領民は弱い立場だからだそうだ。




父を、俺は尊敬している。

逆らうつもりは無い。

今も、これからもだ。




だが、わからないものはわからない。



彼らが弱いとは思えない。






それを言えば、眉をひそめる家臣もいるので、俺は源三郎にしか本音は語らない事にした。



源三郎だけはうなづいて、聞いてくれるからだ。







「保明様は、少々変わっておられる。ですが、悩み考える事は学びです。私は、そんな保明様が好きですよ」






笑いながら、背中が痒くなる様な事まで言う。









身分の違いを除けば、人は皆同じだと思う。



感じるものは同じ。





悲しみも、痛みも、喜びも。






そこに、身分の上下は無い。




彼らは、従うだけの存在では無い。






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