スピリット・オヴ・サマー
 そしてその後は曖昧な逃げの利かない、男と女になってしまうであろうことは目に見えている。なのに何故か、直接素肌を交えることよりも、この薄絹越しの体温が愛しくて仕方がない。
 沈黙の果てに、憲治はつぶやいた。
「…もう一度、もう一度だけ俺を『逃がして』くれないか、な…。」
 そして、「憧子」の頬に軽くキスしてから
「もしここで、お前を抱いたら、もうお前とは会えない。会う理由が一つ減ってしまいそうで恐い。俺、このままで居たい。もうしばらく、頼む…」。
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