スピリット・オヴ・サマー
 薄絹一枚のところで記憶のフィルター越しに「誰か」の顔がぼやけている。そして。
「あ…。」
 憲治は階段を上りながら、声が出てしまった。解ったのである。
 「憧子」だ。母は、「憧子」に似ている。というより、母の少女時代の写真を見せてもらったことがあるのだが、その写真の中で微笑む母の顔に似ている。軽い眩暈を覚えて、憲治は額に手をやったまま、ほんの少しの間、階段の中ほどで立ち止まった。
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