スピリット・オヴ・サマー
 だから、憲治は自分から実家に帰ろうと思ったことは一度もないし、何よりも自分は「赦されてはいない」のだろうと、ずっと思ってきた。
 それだけに、今まさにこの居間に入ってこようとしている父の浮かれようや、だましてまで我が子を帰省させようとしたという事実、そして、母から聞いた「憲治を待ちわびて落ち着かなかった父の様子」など、思いもよらなかった。
 自分は、もうとっくの昔に赦されていて、逆に自分で自分を未だに赦していないだけだったことに、憲治は改めて気づいた。気づいたのは4日前、そう、「憧子」に会ってから、だった。
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