スピリット・オヴ・サマー

　千佳子は続けた。
「だから、本当は安心してた。恋人よりも、友達でいてくれることのほうが、私には大切だったの。そうすれば、私はずっと憲治君のそばで、憲治君を見つめていられる…。私、どうしたらいいのか分からなくなっていたの。憲治君が聖菜とつきあっている間は、いつ迄も友達でいられる。だけど、だけど…、」
　俯いた瞬間、千佳子の目からぽろぽろと雫がこぼれた。
「そのまま憲治君が聖菜とつきあい続けることに耐えられなかった。だって、そのままじゃ憲治君は『聖菜の彼氏』だったから…。私、憲治君に傍に居てほしかった。だから、憲治君が聖菜と別れたらしいって聞いたとき、すごく嬉しくなった。憲治君が私の所に帰ってきた、また私だけに夢中になってくれる憲治君が帰ってきたって。なのに、私は…。」