スピリット・オヴ・サマー
 憲治が目をやった刹那だった。確かに憧子がいた。が、その隣に、ワイシャツの袖をまくり上げ、野暮ったいストレートの黒いスラックスをはいた少年が見えた。
 一瞬の幻、だろうか。
 瞬きの中に少年の姿は消え、しかし、憲治はその少年が誰なのか、分かった。
 「憲治」だった。
「まじかよ、」
 憲治は声にならないくらいのつぶやきの中で立ち上がり、異形の翼を手にとった。憧子が駆け寄る。
「ほら、飛んだべェ!憲治さんの飛行機、飛んだべェ!」
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