スピリット・オヴ・サマー
 夢見て裏切られることの恐怖を、おとぎ話を笑い飛ばしながら忘れてきた。そのせいで、またあの頃の様に夢を見ることができるのかどうか、自分でも分からなかった。
 激しい虚しさが憲治を襲う。
「…分からない。」
 俯く憲治。
「普通に生きてけば、それで。それだけだった。やっぱり、俺、主体性ないから…。」
 多分憧子が言うであろう言葉を、今度は憲治が先に言った。だが、憧子は何も言わず、憲治の前に静かに立った。そして、憲治の頭をそっと抱き寄せた。
「っ…、」
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