スピリット・オヴ・サマー

　憲治は、ほんの少し考えた。そして、
「患者は、治療を終えた、と。そうじゃないか？」
　次の瞬間、憧子は憲治の胸に飛び込んだ。そして泣きじゃくった。
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
　憧子が何度も繰り返す。昨日の千佳子の面影が胸に過る。
「憧子、俺は何もなくしてない。これからも、憧子は、北中は俺の心の中で、何時までも覚めない夢になって、ずっと、ずっと…。」
　抱き寄せる憧子の体。柔らかさも、暖かさも、月明かりの中で抱きしめたときと変わらない。