スピリット・オヴ・サマー
 ガヤつきながら引き上げていく子供達。パイプ椅子に腰を下ろす憲治。
 美しすぎた白昼夢の幕切れが、こんなにも突然に、しかも残酷に終わりを告げたことに、しかし、憲治は悲しさを感じなかった。悲しいと言うには、余りにも淡すぎる夢だった。淡すぎるが故に、忘却を許さない、そのことのほうが残酷であることも確かだった。
 確かにあのまま憧子と時を共にすれば、憲治自信の身に危険が及んだであろう事は容易に想像できる。焼けたアスファルトの上を這う己の影が、明らかに他の人たちのそれよりはるかに薄くなった事を発見した時の衝撃を憲治は忘れない。
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