スピリット・オヴ・サマー

　聖菜の唐突な問いに、それに見合う言葉を探る憲治の胸中に、あのリンゴの香りのする紅茶の湯気が漂う。その向こうに浮かぶのは千佳子の、あの寂しげな笑み、だった。
　その笑みに再びまみえることを恐れる間もなく、憲治の視線が聖菜の表情を捕らえる。そして一方、聖菜は憲治の視線を避けるように瞳を伏せ、その口元に柔らかな微笑みを浮かべたまま、さっきまでの他愛のない話の続きをするように言葉を繋いだ。
「私は、しました。先輩と別れた後も、いろいろな人と。両惟いの時も会ったけど、片惟いの時も、ずっとたくさん。」