スピリット・オヴ・サマー
「聖菜…。」
 もう一度、忘れかけていたきらめく惟いを呼び覚ましてくれた彼女の名をつぶやいてみる。うれしいのに切なさで胸が苦しい。思い切り息を吸い込むと、故郷の優しい風が魂の中に染み込んでいく。
 その時である。
 ざあっ。
 稲穂の海を渡って来たのであろう、一陣の風が憲治の前を横切っていった。
 憲治は何かに揺り起こされるようにその風を目で追った。あの風の先に、きっといた。「憧子」がいた。ただし、今までならば。
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